感想 『希望論』 宇野常寛 浜野智史

冒頭に「希望論というタイトル付けには抵抗があった」とあります。具体的な提案がネットに依存しているとの批判もわからなくはないですが、社会の動きを理論づけて終始するようなものよりは実用的ではないでしょうか。

大枠としては、震災後、復興に際して地域コミュニティや共同体の再生が謳われる一方、現代日本の社会システムでそれは現実的ではない、であればソーシャルメディアが良いのではないか。そこからインターネットの可能性について言及されており、ある意味で期待通りの内容です。

テレビに対して一点だけ言及します。本書では、テレビの「情報の完結性」を軸として捉え、それが強いと映画的、弱いとインターネット的に傾くと述べています。映画的にはそこに物語性があり、萩本から松本までのカリスマ芸人が出現した。現代は物語が失効し、「アメトーク」や「M-1グランプリ」などゲーム化した番組が増えている。

そして

『「大きなゲーム」を設定することで、それをプレイする無数の若手芸人たちの「小さな物語たち」を視聴者に選択してもらう』

と。

つまり、物語性が失効した現代では、ゲーム・競技化した番組によって人工的に物語を創出している。現代でそのもっとも成功した「大きなゲーム」がAKB48である。ふむふむです。

この観点は私にはなかったので大変刺激的でした。まさかM−1とAKBの総選挙がつながるとは。

あえて申し上げるとすれば、では萩本から松本をはじめとするカリスマ芸人が出現した「大きな物語」とはいったい具体的にどのようなものであったか。若干、ゲームと物語の定義があいまいな部分がありました。しかし、社会(世相)と芸能界、しいてはお笑いを結びつけて考えることは興味深く、過去のお笑い史を知る上でも重要と考えています。

過去にそのような本は存在しておりますが、80年代後半の漫才ブームのネタを扱ったもので限定的です。ある意味で、「なぜ社会は松本人志を生んだのか」のようなタイトルになるのでしょうか。既にたくさんの著書がありそうですが、存じ上げておりません。

オススメの本がありましたら教えていただきたいです。

そして『希望論』は大学生(特にメディアを専攻する方)にとってはなじみやすい名著だと思います。ぜひ、オススメ致します。


希望論 2010年代の文化と社会 (NHKブックス)

希望論 2010年代の文化と社会 (NHKブックス)