なぜ「今崎ホセ」は爆笑を生んだのか

2012年、最初のTwitterのHOTワードは「今崎ホセ」だそうです。
これは年末の『絶対に笑ってはいけない空港24時』にて
山崎邦正が発した言葉です。

さまざまな笑いが散りばめられた今回のシリーズで、
なぜ「今崎ホセ」がここまで笑えたのか。
語感の響き、センスもさることながら
私の結論は、緊張と緩和の二重構造です。

そもそも緊張と緩和とは、かつて桂枝雀が提唱した笑いの理論です。
緊張が緩和されたときのギャップ、落差によって笑いが生じるという、いたって基本的な考え方です。

例えば、先生がもの凄い剣幕で説教しているときに
鼻毛が出ているのを見て、吹き出してしまうって話。
これは説教中の緊張感が鼻毛によって緩和されています。
このように緊張と緩和は日常のそこらに転がっているのです。

そしてもちろん、テレビはこの理論を能動的に活かし、
笑いに昇華させています。

例えば『ゴットタン』マジ歌選手権の審査
にも活かされています。
審査員の口に牛乳を含ませ、笑いに制約をかける演出です。
牛乳を吹くとその画が視聴者への笑いの訴求ポイントにもなるという、一石二鳥になっています。

今回はその緊張と緩和自体が二重になっていたので
順を追って述べていきます。


一つ目としてまず「絶対に笑ってはいけない」という
番組コンセプトそのものに伴う緊張と緩和です。

番組中、笑うと罰ゲームでお尻を叩かれるシステムが
常に作動しています。
一見シンプルですが、この緊張は視聴者にとっても
間接的に作用しているといえましょう。

根拠として、ふかわりょうのケースを挙げます。
以前、彼がこのシリーズに出演して
一言ネタを披露したことがありました。

普段ならマンネリ化して笑えないのに、
そのときはどうもおかしくて仕方がなかったのです。
なぜか。それは私=視聴者に対しても「笑ってはいけない」
という緊張が作用したからです。

本来、芸人のネタをお笑い番組で観るときは、
笑おうという意志が働くぶん、ハードルも上がります。
しかし、笑いが制約された状況では緊張が生まれるので、
緩和もそのぶん生まれやすい、つまり笑いやすくなるのです。

ふかわりょうはボディーブローのように、
言葉でじわじわと笑わせてくるタイプです。
その意味で、ストレートから変化球まで刺客をうまく利用する
ガキの使いのキャスティングは秀逸です。


以上のように「絶対に笑ってはいけないシリーズ」は
企画そのものに緊張と緩和を組み込んでいます。


二つ目として、山崎の「名前を言ってはいけない」という制約です。
「今崎ホセ」はその緊張を一気に解放しました。
それでは具体的な内容に入ります。

毎年、絶対に笑ってはいけないシリーズには
蝶野正洋の理不尽ビンタという
山崎邦正をいたぶるコーナーなるものが存在します。

今回の空港編でも、山崎邦正が容疑者の疑いをかけられます。
CAのダイイングメッセージに「犯人はヤマザ…」とあり、
蝶野が一人ずつ名前を聞いて問いただしていくシーンです。

・名前をごまかさないとビンタされるという背景。
・その名前を山崎が最後に返答する流れ。

これらの見事な演出によって、
山崎が返答する前に緊張感が最高に高まります。

蝶野:名前は?って聞いてんだよコラ!
山崎:…今崎邦正です。

蝶野:面白いな。ほらもう一回言ってくれよ
山崎:今崎です。今崎ホセです。

蝶野:みんなに向かって言え!名前は?
山崎:今崎ホセです!

映像でご覧の通り、
松本さんの「たまんらんわ、そんなん」や
モニタリングしている浜ちゃんの爆笑、うなずけます。
よく見ると、後ろのエキストラさん方も笑いを
ぐっとこらえているのがわかります。

山崎邦正の一貫して嫌がる態度と見事な返し。
蝶野の何回もてんどんのように言わせる流れ。
それらを導くスタッフの演出。
どれをとっても最高です。


このように上記の二つの緊張の縛りが
一気に緩和してメンバー内に笑いが起こったのです。
もちろん、私たち視聴者にとっても
爆笑として「今崎ホセ」は記憶に残るはずです。

番組は、紅白の裏ながらも
前半18.7% 後半16.6%と、
シリーズ最高記録を更新しました。

他にも見所はたくさんあります。
今回はお笑いの教科書通りとして
緊張と緩和の理論をフルに体現した
日テレ、三冠王をふくめてあっぱれ。