すべり笑いにはこれが必要。「フォロー」と「ワンテンポ」

ずっと思っていたことがあります。
それは、すべり笑いは集団芸ということです。
そして、素人の世界でもうまく応用することができる、と。


そもそもすべり笑いってなんでしょうか。
すべり笑いとは、すべった後の空気、またフォローによって引き起こされる笑いです。

本題に入る前に興味深いツイートがあったので紹介します。
テレビ東京の深夜番組『アリなし』にて、ふかわりょう
「すべり笑いは必要か」というテーマでこう述べたそうです。

「すべり笑いってあっていい。ただ自分が芸人としてすべりたくないという気持ちがあるかが一番大事」。

心の底からなるほどな、と思いました。
自分が芸人としてすべりたくない気持ちがあるか。
つまり、その気持ちがあるかのように観客や視聴者に見せられているかが重要なのです。

なぜその気持ちが重要か。

追って説明します。
前述したようにすべり笑いは、すべった後のフォローによって笑いが起こります。
このフォローは、基本的に本人のものと他者からのものと二通りあります。

例えば、誰かがすべると

「テレビでこんなにシーンってなることある!?」

となかばツッコミが入ることがあります。
雨上がり宮迫、東野、千原ジュニアフット後藤、有吉、ザキヤマなどMCからひな壇芸人に至るまで、多くの芸人がこのようなベクトルでフォローを入れています。


「え〜と、クレームはこちらの宛先までお願いします。」

このように、本人によるフォローもあります。
とくに南キャン山ちゃんの追いつめられたときの切り返しは秀逸です。また、ピース綾部がよく「今のキャンセルでお願いします」と言いますがこれもすべった後の本人フォローです。


補足すると、すべった後の本人フォローで「キレ芸」と呼ばれるものもあります。
ただし、キレ返しはめちゃブリで何かをやらされた後のすべりに限定されます。
それを満たす場合は、すべって当然だという態度でキレることでむしろ大きな笑いにつながります。

自虐的なフォローよりも語彙は少なくてすみますが、キレ加減を空気に合わせなければなりません。
その意味では、カンニング竹山を代表するすべり後のキレ返しは技術を要していると考えられます。


これらフォローをすべった後に挿し込むことで笑いが起こります。
考えてみると例では、周りはすべってしまったことを突いて笑いにし、本人はすべったことに対する自虐的なフォローで笑いを成立させています。
つまり、そこにはすべろうとしてすべったわけではない、という前提が存在します。そしてそれが必要なのです。

○○しようとしてできなかった。この逆説的な
過程や結果は観客や視聴者に伝わりやすく、笑いに直結します。
笑いの方程式ともいえましょう。

この方程式を守るためにテレビでは、芸人はその前提をお約束として、番組内でやりとりをしているのです。ゆえにすべり笑いにはプロレスの要素があるといえます。すべる本人、他の演者、観客、それぞれがいわば協力して成立させている。

つまり、すべり笑いとは集団芸なのです。

ちなみにすべり芸を認めない明石家さんまが、
すべり芸の先駆けである村上ショージを重宝していることは矛盾ではありません。さんまの好む集団芸、パターン芸に「すべり笑い」は組み込まれているのではないかと私は考えています。


仮にすべってもかまわず、どんどんすべり球を放っていくとします。
すると、ウケを狙ったのにすべった、という構図が崩壊します。
周りもフォローが入れづらくなり、後に本人が入れても
観客には迷いを含んだゆるい笑いしか起きず、
番組の空気もうわついてしまいます。

このように上記の単にすべりちらすものと、ルールに則ったすべり芸の笑いには、似ているようで大きな差があるのです。


ここまでフォローについて述べてきましたが、次にワンテンポに触れたいと思います。
タイトルの通り、すべり笑いには「フォロー」と「ワンテンポ」が必要であり、
このワンテンポも軽視することはできません。

例を挙げます。
めちゃブリはテレビ、もちろん素人の世界にも存在します。
そこでなにかやらざるを得なくなった人が渾身の一発芸を披露したとします。
やりきった後の静寂、そして皆が「すべった瞬間」を共有し、笑いが生まれる。

つまり、この共有する僅かな時間の間がワンテンポなのです。
プロなら+αでワンフォロー入れることもありますが、素人はすべった自身のすり傷に気を取られがちです。

それがゆえに素人は、
「うわ、こわいこわい」や
「だから、やりやくなかったんだよ〜」などの
自己保身的なフォローをすべりきっていないところで入れてしまうことがあります。

しかし、これらフォローでも、すべってワンテンポ後に入れれば笑いの量が圧倒的に変わります。
突きつめればおそらく0・何秒、そんな世界です。

すべった後の静寂を全体で感じることで一体感が生まれます。
そして、ギャグ→すべりきる→という順を追うことで「すべり芸」としての笑いが自然にわくのです。


このワンテンポを非常にうまく使っているのが、ますだおかだ岡田です。
彼のすべりの間はずばぬけていると見ていて感じます。
あえてすべろうとするすべり芸は革新的である意味タブーですが

ギャグ→すべる→ワンテンポ→笑い
この流れをしっかり踏むことができている芸人といえましょう。


まとめると、素人に気のきいたフォローは難易度が高いです。
しかし、ワンテンポの間は活用できます。

FUJIWARAの原西のように一発ギャグに絶対的な自信があるわけではない、だがどうしてもなにかしないといけない状況になってしまった!
そんなときはおそれずにすべるのも一つの手といえるでしょう。

しかしながら、すべり笑いを狙いにいったのに、周りが中途半端にウケてしまう場合もあります。
というのは、すべらせるのは可哀想という同情笑いが出る可能性があるのです。

そこですべり笑いでいくのなら、周りがあえてポカーンとさせることを狙うのも方法です。
そしてその後、ウケを狙ったのにはずしてしまった、という意図が伝わるフォローを入れれば
すべり芸により近い笑いが起こるでしょう。


※すべり笑いはプロレスの要素がある、
つまり周りの見ている人の配慮が必要です。

これが見込めない場合はご注意ください。
ふかわりょうによれば、すべり笑いには良性と悪性があります。
フリをしておいて無視をするような悪意のあるすべり笑いも残念ながら存在します。
フォローの重要性は以前このブログで述べましたが、くれぐれも気を付けていただきたいです。


ここまですべり笑いについて考察しましたが、実に深い領域であることがわかりました。
すべり笑いを日常生活で応用することで
コミュニケーションによる笑いの幅が広がってくれることを祈っています。